これぞ「マンガによる地方創生」❢❢(新聞記事あり)

「アーティストビレッジ阿蘇096区」の入り口

 大分県議会自民党の地方創生調査会(井上明夫調査会長)で熊本県高森町の「アーティストビレッジ阿蘇096区(オクロック)」を訪問しました。

 漫画事業を手がけるコアミックス社が3年前に町営の温浴施設を買い取って作った施設です。

 漫画家の育成(現在4名、将来は外国人も含めて30人近くになる予定)や漫画作品を上演する歌劇団(現在24名、オーディションには106名が応募)が生活しながら漫画づくりの勉強や稽古をしています。中にはスタジオやミニシアターやライブラリーなどがあり、マンガ製作のための最新の機材が揃っています。

 多くの若者が町に移住し、人口6,000人・高齢化率45%の高森町に新風を吹きこんでいます❢❢

6000冊の本がそろうライブラリー
地域住民との交流室。この日は歌劇団員がトレーニング中でした。
動画収録スタジオ
ミニシアター。完全防音なので歌劇団員が発声練習をしてました。
マンガ製作室
歌劇団のレッスン室
スタッフの皆さん。それぞれ出身国が違います。
住居棟。みんなでここで暮らします。

(以下、産経新聞より引用)

熊本に令和の“トキワ荘” アジア戦略見据え出版社が新時代の漫画家育成に本腰

2021.5.22 07:00

 昨年のコミック市場が過去最大規模に成長した漫画業界。好調を背景に、次世代を担う漫画家育成の取り組みが相次いで行われている。主に漫画事業を展開する出版社「コアミックス」(東京都武蔵野市)は、昭和期の巨匠漫画家らが住んだ「トキワ荘」を想起させる共同生活施設を熊本県に開設。集英社(東京都千代田区)は、週刊少年ジャンプ編集部が50年以上にわたり蓄積したノウハウを創作講

座や教則本で公開するなど、これまでにない取り組みを実行中だ。(文化部 本間英士)

最新設備で共同生活

 熊本県東部に位置する人口約6000人の高森町。自然豊かなこの地に昨秋、漫画家や劇団員らアーティストを育成する施設「アーティストビレッジ阿蘇096区(オクロック)」が開設された。事業を手掛けるコアミックスは平成12年、週刊少年ジャンプ元編集長の堀江信彦社長らにより設立。『北斗の拳』作画担当の原哲夫さん、『シティーハンター』の北条司さんも取締役を務める。

「今はリモートで漫画を描ける時代。ただ、同じ志を持つ若者たちが夢を語り合いながら創作をすることで、熱量のある高クオリティーの作品を生み出せるのでは、とも思います。コロナ対策を万全にしつつ、昔の『トキワ荘』のように集団生活で切磋琢磨(せっさたくま)し、デビューを目指してほしい」

 現地での事業を担うグループ会社「熊本コアミックス」の持田修一社長は、こう狙いを明かす。

 同施設には最新の設備を用意。プロが使う作画機材をそろえた漫画制作スタジオを置き、東京の編集部と直結した大スクリーンを通じて編集者からアドバイスを受けられる。書庫には執筆の参考になる書籍や、他社刊行の作品も含めた名作漫画が並ぶ。同社は、さまざまな形で志望者に執筆の仕事を提供。給与の一部から食事代と家賃を引く。生活コストは東京の3分の1ほど。部屋は個室で、密にもなりにくいなど、執筆時のメリットも多いという。

九州と東南アジア意識

 新たな才能のターゲットは主に九州と東南アジア。九州は『ONE PIECE』の尾田栄一郎さん(熊本県出身)、『進撃の巨人』の諫山創(いさやま・はじめ)さん(大分県出身)をはじめ多くの名だたる漫画家を輩出してきた。

 ただし、多くの出版社がある東京から遠いがゆえの悩みも抱える。東京に原稿を持ち込むと、金銭的負担が大きく、過去には経済的な都合で夢を諦める漫画家志望者も多かったという。

 「飛行機代や宿泊費で最低10万円はかかる。だったら、自分たちが出向けばいい、という発想です」(持田さん)

 東南アジアにも日本の漫画ファンは多い。特にインドネシアは人口2億6700万人と日本の倍以上で若い世代が多く、漫画熱も高い。だが、多くの東南アジア諸国では漫画産業が育っていない。3年前の国際交流イベントで、インドネシアをはじめ各国の漫画家志望者を熊本県に招待した際、一部の志望者から「ぜひ日本で(漫画を)教わりたい」と言われたことも事業を後押しした。

「高森は自然豊かで、食べ物や水がおいしい場所。インドネシアの人たちからは、『漫画を描く環境として素晴らしい』『まるでアニメに出てくるような自然環境。創作のインスピレーションが湧く』などといった声がありました」

 目下の課題は、世界的なコロナ禍。現在住んでいる漫画家は、日本人女性2人のみ。実際に世界各地から志望者を呼び寄せるのは、早くて来年秋になりそうだという。

 「海外の志望者にずっと日本にいてもらえるとは思っていません。日本でデビューした後、将来的には母国に戻ると思います。われわれは現地の出版社と連携し、漫画出版をサポートする。そうやって世界の漫画産業を盛り上げていければ…と考えています」

想定以上の反響

 集英社の週刊少年ジャンプ編集部も近年、従来とは異なる取り組みを行っている。同誌は昭和43年の創刊以来、伝統的に新人育成に注力。近年も、新たな取り組みなどで年間1億円以上を投資している。

 「新しくて面白いヒット作を生み出す一番の近道は、才能あふれる新人作家(漫画家)と一緒に作品作りをすること。ジャンプは50年以上ヒット作を出し続け、編集部には多くのノウハウと経験値があります。今までは作家と編集者で共有するだけでしたが、それらを表に出すことで、これから作家を志す人の力になれるのではと考えました」

 漫画アプリ「少年ジャンプ+(プラス)」の籾山(もみやま)悠太副編集長はこう語る。

 籾山さんは、昨年8月~今年1月開催の創作講座「ジャンプの漫画学校」を担当。『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の秋本治さんら人気漫画家らが受講者に講義を行い、編集者がネーム(漫画の設計図)の添削などの指導を実施。50人の募集に対し、約千人からの応募があるなど、反響は想定以上に大きかったという。同講座の卒業生の中には現在、連載デビューを果たした人もいる。

 「今は情報がネットにあふれているからこそ、どの情報を選べばいいのかが分からないと感じる人も多いと思う。新人育成の取り組みを今後も果たしていきたい」と語る籾山さん。今年も第2期の開催がオンラインで予定されている。8月には、「りぼん」など少女漫画誌の編集者や漫画家が講師を務める「集英社の少女漫画学校」(オンライン)も開講予定という。

ヒット作が才能を呼ぶ

 週刊少年ジャンプ編集部の場合、4月に刊行した『描きたい!!を信じる 少年ジャンプがどうしても伝えたいマンガの描き方』も話題になっている。同編集部が漫画のいろはを分かりやすく紹介する教則本。累計発行部数は、この種の書籍としては異例の8万7000部を突破した。 

同書を読めば、「プロの実力」がこれ以上ないほど如実に分かる。「下校中の男子2人組がひったくり犯を見つけて捕まえる」などの与えられたお題をもとに、有名漫画家たちが描くネームは必見。わずか2ページでも読み応えがあり、作家性が発揮されているのだ。また、『鬼滅の刃』作者、吾峠呼世晴(ごとうげ・こよはる)さんらが漫画について語るコーナーがあるなど、志望者以外でも興味を引かれる内容だ。

 同書を担当する齊藤優副編集長は、以前から初心者向けの「適切な教材」がないことが気になっていたという。「ヒット作家の皆さんに協力していただけたのがありがたかった。編集部は新人の皆さんがつまずきがちな悩みを把握しており、皆さんの悩みを解消する助けになれば」(齊藤さん)

 出版科学研究所の調査によると、昨年のコミック市場規模は前年比23・0%増の6126億円。昭和53年の統計開始以来、過去最大となった。齊藤さんは「ジャンプには、ヒット作が出ると新しい才能が集まる-というサイクルがある。幸い、昨年は『鬼滅の刃』をはじめ、さまざまなヒット作があった。新人作家が増えることが、漫画業界の発展と進化につながる。今後もいいサイクルを作り、その中から将来の大ヒット作家が生まれれば」と話している。